同性が好きなんて、言えなかった。 俺を異端な存在だと思っているのは、誰よりも俺自身だ。
ずっと隠し通すつもりだった。異性と付き合って、結婚して。 “普通”に紛れて死んでいきたかったのに。
「先輩、僕と付き合ってくれませんか?」
よりによって、好みどストライクのお前が告白してくるなんて。
少し長めの黒髪は、いつも寝癖をとるのが大変だと恥ずかしそうに笑っていた。 よく上目遣いになる二重の瞳は、素直な好意をいつも俺に伝えてくる。
お前のそれだって、ただの先輩に向けるものだと思っていたのに。
なぁ、どうしてそんな目をするんだ?
「ボケかなんか? 男同士で付き合うとか、ありえないだろ」
「そうですか? 僕の周りには付き合ってる人、いますよ。本気かどうかは……見て、分かりませんか?」
分かるに決まってる。 切なさを含んだ甘い瞳。声だって、少し震えて緊張が伝わってくる。
お前が真剣だって分かってるから、俺の心はこんな、焦燥に掻き立てられてるんだ。
「無理、だよ。俺はお前を、そんな風に見られない」
「……嘘吐き。先輩にとって、僕は恋愛対象でしょう?」
言葉は強気なのに、俺を見つめる瞳には不安が混じっている。
今すぐにその不安を解消してやりたい。心はそう訴えている。
俺は顔を背けた。
「男が恋愛対象なわけないだろ。この話は忘れるから――」
「――先輩!」
頬に指先の冷えた手が触れて、顔の向きを戻される。 迫る顔が見えたと思ったら、唇に、柔らかい感触がした。
ドクン、ドクン、ドクンと鼓動が大きく、速くなって、体が熱くなる。
「はぁ……っ」
「お、前……」
口に手の甲を当てながらも、目の前の顔に視線を奪われた。
白い肌に朱が乗って、潤んだ瞳は相変わらず甘い――。
「好きです……!」
そんな瞳で見つめないでくれ。そう思うのに、俺の腕は、華奢な体を抱きしめていた。
もう、自分を騙せない。
fin.
お題「そんな瞳で見つめないでよ」より
(永遠ちゃんが読み上げてくれました!)
声:星空永遠
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