チョコレートを刻んで、牛乳を温めて。沸騰する前にチョコレートを入れたら、ぐるぐると混ぜて溶かす。
甘い香りが漂う中、チョコレートが全て溶けたのを確認したら、ホットチョコレートの出来上がり。
「マグカップマグカップ~」
出しておいたマグカップを手元に引き寄せて、小鍋の中身を注ぎ移した。
私は猫舌だから、先に小鍋を洗ってホットチョコレートを適温に冷ましておく。
「よーし、洗い物終わり!」
小鍋の水滴を拭き取って元の場所へと戻してから、マグカップを持ってリビングに移動する。
これから迎えるのは至福の時間。
一度マグカップをテーブルに置いて、しずしずとソファーに腰掛ける。
ふぅ、と息を吐き出して、丁重にマグカップを持ち上げると、堪えきれない笑みを浮かべながら口を近付けた。
「ふー、ふー……」
いざ……!
「何、ニヤニヤしてるんだ?」
「んっ、千晃(ちあき)……!?」
無駄にかっこいい声がして目を向けると、廊下からルームシェア仲間の一人が来ていた。
鎖骨が見えるラフな黒シャツにジーパン。シンプルな格好だから顔の良さが引き立っている。
くねくねした髪と同じ、性根が捻くれたやつ。
いいのは見た目だけだ。
「あんたには関係ないでしょ、今いいところなんだから邪魔しないでよ!」
「ふーん? 独り言が激しかったから見に来てみれば……ココアかなんか?」
「ホットチョコレート! って、こっち来ないでよ」
聞きながらこっちに来た千晃は、わざわざ私の隣に座って、嫌味ったらしくソファーの背もたれに腕を引っかけた。領域侵害をしてくるのはいつものこと。
「まーた甘ったるいのか」
「そうです、分かったら好きなとこ行って、甘いもの苦手な人?」
「へぇへぇ」
足まで組んで、どこかに行く気配は全くない。
しょうがないから、私は千晃を無視してマグカップに口をつけた。
とろり。濃厚な甘さが口いっぱいに広がって、「んん~」と思わず歓喜の声が漏れる。
ここが天国だ。
「美味そうに飲むな」
ふ、と笑いながら私を眺める視線に横目で気付いて、ドキッとする。
不味い不味い。こいつはただの遊び人、遊び人。
ときめいたって純情を弄ばれるだけなんだから。
「美味しいもの」
少し速くなった鼓動を隠してつんと言えば、手の中のマグカップを奪い取られた。
「あ、ちょっと!」
追って千晃を見た時には、流れるようにホットチョコレートを飲んでいて。
「んぐ……」
人の好物を取った挙句、顔を顰めるってどういうこと!?
「甘いの嫌いなくせに何飲もうとしてんの! もう、返してよ」
手を伸ばせば、千晃は大人しくマグカップを返す。
勝手に自滅した人は放っておいて、またホットチョコレートを飲もうとしたら、間接キスという言葉が頭に過ってしまった。
うぐ、と手が止まる。その隙を見計らったように、顎に指が引っ掛けられて、顔の向きを変えられた。
「……!?」
触れたのは、唇。口の中に流れ込んでくるのは、甘い甘いホットチョコレート。
「はぁ……こんな甘ったるいもの、よく飲めるな」
ごくり、と思わず飲み込んでから、ごまかしがきかないくらい顔が熱くなっているのを自覚する。
「な、な……っ!」
指の先まで熱くなってる。
私を見た千晃は、余裕綽々と笑って唇を動かした。
「美味いか?」
悪魔の問いなのに、私はこくりと頷いてしまった。
fin.
お題「甘い甘いチョコレート」より
(永遠ちゃんがお声を提供してくれたので、動画にしました!)
星空永遠ちゃん
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