「ねー、お兄ちゃん。また彼女作らないの?」
「うるさい、傷心に染みる」
「彼女連れてきて欲しいなー、お菓子もらえるし」
「自分で買ってこい」
ソファーの隅に座っているお兄ちゃんを、後ろから覗き込む。
片手でいじっているスマホには、[ごめん][許して][誤解だ]が続いたトーク画面が表示されていた。
またブロックされたんだ。お兄ちゃんってば顔はいいのに。いや、顔がいいからいつもこうなってるのか。
「お兄ちゃんの彼女ってみんな優しいのに、そこまで怒らせるなんて才能だよね」
「怒らせてるわけじゃない。泣いてるんだ。……くっ」
「あ、落ち込んじゃった。よしよし」
ブラウンに染めている髪をわしゃわしゃ撫でると、素っ気なく手を払い落とされた。
お兄ちゃんって基本人に冷たいのに、彼女にはデレデレするのちょっと気持ち悪いんだよね。
歴代の彼女は、みんなそこがいいって言ってるんだけど。
あたしはみんなに優しい男の子がいいな。
「そもそもお前の態度が悪いんだぞ。“また新しい彼女?”なんて言って」
「えー、本当のこと言ってるだけじゃん。八つ当たりしないでよ」
「そういうちょっとしたことの積み重ねで離れていくんだ」
「一番の要因はお兄ちゃんが女の人に囲まれることでしょ」
妹に八つ当たりなんて情けないなー。
全くもう、とため息をつけば、お兄ちゃんはスマホを握りしめてぶつぶつと呟き出した。
「俺は一切相手してないのにしつこく居座るあいつらが悪いんだ。あいつらの声なんて一切耳に入れてないのに」
「やだやだ、女々しい言い訳。どう考えたって振られ続けるお兄ちゃんが悪いのに」
恋心とかよく分からないけど、結果を見ればそういうことでしょ?
お兄ちゃんっていわゆる、“捨てられてばっかの男”なんだから。
「彼女以外の全女、消えればいいんだ」
「うわー、きも~」
「あいつら何を言っても離れないのに、これ以上どうしろと……? 俺に恋愛は許されないのか」
「お兄ちゃんって彼女できると気持ち悪くなるから、独り身でいいんじゃない?」
「……お前最初と言ってること矛盾してるぞ」
スマホを見たまま、お兄ちゃんは淡々と返す。
しばらくこのモード続くし、お兄ちゃんに構うの飽きてきたな。
オレンジジュースでも飲もうっと。
「くっ……明日家に行くか……」
「えー、ストーカーじゃん」
「うるさい、誠意を見せれば変わるかもしれないだろ」
「振った男に何されても心は変わらないと思うな~」
食器棚からコップを取り出して、冷蔵庫を開ける。牛乳の隣にあるオレンジジュースを取って、とぷとぷとコップに注ぐと、口を閉じた。
リビングはお兄ちゃんが占拠してるから、あたしは部屋に戻って、オレンジジュースを堪能する。SNSでも見ようっと。
[明後日、告白しよう…!]
タイムラインにそんな呟きを見つけて、[がんば~!]とメッセージを送っておく。
クラスメイトの男子だけど、優等生って感じで好感度高いんだよね。あの彼が告白なんてちょっと意外だな。相手は誰なんだろ。
そんなことを考えながら、タイムラインを遡っていって、また別のことを考える。そうして土曜日は過ぎていった。
翌日、有言実行したらしいお兄ちゃんは、夜になると機嫌が直っていて。
彼女に謝り倒して、復縁したって聞いた。まぁ、あたしは遊びに来た人から手土産のお菓子がもらえれば、なんでもいいんだけど。
また気持ち悪いお兄ちゃんを見かけることになるのはごめんだな~、と思いながら月曜日、学校に行くと、クラスメイトの男子に呼び出された。
お兄ちゃんとは正反対の、みんなに優しい男子。そういえば一昨日誰かに告白するって言ってたっけ、と思い出して、あたしは相談を受けるつもりで彼に付いて行った。
「本当は、言うか迷ったんだけど……でも、意識されたいから――」
fin.
妹
兄
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