「終わったよ」
掠れた、優しい声で君に告げる。
上手く笑えなかったこの顔を、君が見ていないのは幸いか。
いいや、君が目を開けてくれるなら、変な顔を見られたって構わない。
「そう……」
君の声も小さくて、聞き取りづらかった。
止血処置を施してもなお、地面に血溜まりを作る、君の命の雫を止める術は……もうない。
僕達の生きる意味だった復讐は遂げた。噎せ返るほどの濃密な血の臭いが、終幕の供だ。お互い命を賭けた。これも覚悟していた結末のはずだ。
でも、どうしても願ってしまう。致命傷を負ったのが、君ではなく僕だったら。
「よか、った……」
音になりきれない、小さな小さな声がする。この腕に抱きかかえた君の体は華奢で、どうして襲撃に加担させたんだろうと、君を裏切る後悔が過った。
悲願を叶えて、君を失ってしまったら、僕はどうすればいいんだろう。君と共に新しい人生を送ることができないなら、僕もここで……。
「ましゅー、は……しあわせ、に……なって……ね……」
「レイラ……」
どうして、そんなことを。
「さむ……ぃな……ばい、ばい……」
「っ……」
目を閉じたまま、君は微笑(わら)う。浅い呼吸が、弱い拍動がだんだん感じ取れなくなって、僕はぽたぽたと涙をこぼしながら、君を力強く抱きしめた。
寒がりな君に、体温を分け与えるように。
「レイラ……僕は、君が……っ」
声が詰まる。高ぶる感情を君にぶつけるように、涙が溢れる。ぽたぽた、ぽたぽたと、君の頬に落ちていく。
「ぁった、かぃ……ましゅー……すき、だよ……」
「僕も、君が……っ! レイラが、好きだ……!」
君の目尻から雫がこぼれる。僕の涙と一緒に、頬を伝う。それに酷く胸を締め付けられて、衝動的にキスをした。
くん、と服を掴まれる感覚がする。その微かな意思表示が、キスへの返事が、力を失っても。
僕は、唇を重ね続けた。君の体が冷えていっても、唇から温もりが返ってこなくなっても。
君に、温もりを分けるように。僕の想いを、伝え続けた。
fin.
お題「キスで分ける温もり」より
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