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狂犬SPはお嬢を溺愛中(試し読み)

  • 執筆者の写真: 結之志希
    結之志希
  • 8月14日
  • 読了時間: 5分

更新日:8月16日


(※試し読み版につき、途中までの公開となります。全編はアンソロジー【眼鏡と仕立ての、その奥に。】に収録されていますので、気に入っていただけましたら、入手のご検討をよろしくお願いいたします。詳細は下にて)


恋愛小説「もっと、近づいて。」の表紙画像


 まさか、このようなことになるなんて思いもしなかった。

 月に一度の、婚約者である当銘卓馬(とうめたくま)さんとのお食事の場。

 卓馬さんが希望されたレストランに伺い、SPも置いて、個室で卓馬さんと二人、食事をしていた。


 それが、今は。



「葉奈(はな)さん、この部屋の居心地はどうかな? 葉奈さんのことを考えて、内装にはこだわったんだよ」



 白を基調として、黄緑やピンクを差し色に使った女性向けの部屋。

 気付くとその中心にあるベッドで寝ていた私に、卓馬さんが笑みを浮かべて近づいてくる。


 卓馬さんがあの個室にあった、レストランの隠し通路を私に見せたことは覚えている。

 そのあと、薬品の臭いがする布で口元を覆われて、急に意識が遠のいて。



「卓馬さん……どうして、このようなことを? ここは一体どこなのですか?」


「葉奈さんは花京院(かきょういん)……日本を代表する自動車メーカーの社長令嬢だから、婚約者であっても、簡単に近づけないのは理解できるよ」


「……卓馬さん、質問に答えてくださる?」


「理解はできる、でも、僕は愛する婚約者と、もっと自由に会いたかった。もっと一緒にいたかった。だから、この家を用意したんだ」



 ベッドの上で体を起こした私の頬に、卓馬さんが手を伸ばして触れてきた。

 うっとりと微笑む顔はどこか狂気的で、ぞわっと鳥肌が立つ。

 思わず頬に触れる手を払い落としてから、考えをまとめた。


 つまり、私は……婚約者に誘拐されてしまったということ?



「卓馬さん、私を家に帰してください」


「帰したら、またしばらく会えなくなってしまうだろう? この家で、ずっと一緒にいよう、葉奈さん」



 卓馬さんはベッドに腰掛けて、微笑みながら私の両手をとる。

 私はすぐに自分の手を抜きとって、体の陰に隠した。



「お断りします」



 婚約者を誘拐するような人はごめんだわ。

 SPがこの事態に気付いてくれていたらいいのだけれど。

 お願いだから助けに来て、犬塚(いぬづか)……あのときみたいに。


 硬く目を閉じてそう祈った直後、バンッと大きな音が鳴る。

 驚いて目を開ければ、ちょうど体が向いているほうにある扉が、黒い革靴と、黒いスーツに包まれた足で蹴破られていた。



「なっ⁉ お前は、ヤクザ男⁉ どうして――」


「お嬢の身を守るのが俺の仕事ですから。……ご無事ですか、お嬢。変なことされてません?」



 黒いスーツの内側に、黒いYシャツを着て、赤いネクタイを締めたその恰好は、どう見ても“その道”の人間。

 左サイドを後ろに撫でつけた、遊びのある黒髪に、目尻がつり上がった鋭い瞳と、つり眉。

 横長で角のあるスクエア型の眼鏡は、レンズの上半分だけが黒いフレームで囲われた、ハーフリムで。


 何より裏社会の人間らしさに拍車をかけているのは、左の頬にある縦に長い切り傷の痕。



「ええ、大丈夫……って、“お嬢”と呼ばないでと言っているでしょう⁉」



 私のSP、犬塚健太郎(いぬづかけんたろう)の心配に答えてから、私は目力がありすぎる眼鏡の奥の瞳をにらむ。

 犬塚にそのような呼び方をされたら、どのような誤解をされてしまうか。



「あ~、すみません、お嬢サマ。ついうっかり。ただいまお助けしますんで、少々お待ちください」



 へらへらと笑う犬塚は、慌てたように立ち上がる卓馬さんに迫り、背負い投げをしてベッドから引き離した。



「うっ」


「これでもお坊ちゃんだし、骨を折らないように気をつけないとな~」



 物騒なことを呟いて、犬塚は仰向きに倒れている卓馬さんのみぞおちに、義手の右拳を打ち込む。

 ピクリとも動かなくなった卓馬さんの上着を脱がせて、手足を縛ったあと、彼を部屋の外へと運び出したその一連の仕事ぶりは、見事なものだった。

 ……どう考えても、裏社会の人間が人を始末する場面にしか見えなかったけれど。


 ベッドから足を下ろして、ふちに腰掛ける姿勢になったとき、犬塚が部屋の中へ戻ってくる。



「名家のご令息なら身を引くしかないと思ったんですけどね~。結果がこれだと、もう俺が奪っていいんじゃないかって気がします」


「はあ?」



 全く意味が分からない。犬塚はなんの話をしているの?

 後頭部に手を添えてこちらに歩いてくる犬塚を見ていると、彼は私の前にひざまずいて、私を見上げた。



「そういうわけなので。……お嬢、好きです。昔、俺を旦那にしてくれるって言いましたよね。約束を守って、俺をお嬢の伴侶にしてください」




(続きは【眼鏡と仕立ての、その奥に。】にて)



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