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【600字以下】卒業

  • 2023年9月2日
  • 読了時間: 1分

更新日:2023年9月8日


 今まで、私の卒業は涙と共にあった。

「そんなに泣く?」って、友達も泣きながら笑うくらい、大泣きしていた。


 でもね、今日は涙で迎えたくないんだ。

 だって、メイクが崩れちゃうし、君と迎える特別な日だし。


 緊張してるけど、口紅が取れないように水も飲んでいない。

 だってね、一番綺麗な姿を見せたいから。


 不思議だね。こんな時も、君にもっと好きになって欲しいと思ってる。

 初めて着るこの服で、君の心をもっと奪いたいんだ。



「志穂(しほ)」



 大好きな君に呼ばれて、振り返る。


 君の瞳に映る私は、ちゃんと綺麗に見えているかな?



「……綺麗だ。僕のお嫁さんになってくれて、ありがとう」


「貴方も、素敵だよ。ふふっ……こちらこそありがとう。それじゃあ行こうか、旦那さま?」



 頬をほんのり赤く染めて、柔らかく微笑む君に、私の方が心を奪われてしまう。

 私の頬もきっと赤くなってるんだろうな、と思いながら、君に駆け寄って腕を絡めた。


 今日は、家族から卒業する日。

 独り身から、卒業する日。

 そして、君と恋人から――……卒業する日。


 人生で一度きりの特別な日だから、今日は涙を仕舞って、笑顔を溢れさせるの。



《新郎新婦の入場です――》



 さぁ、卒業しに行こう。そして、新しい人生を迎えるんだ。



fin.

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