今まで、私の卒業は涙と共にあった。
「そんなに泣く?」って、友達も泣きながら笑うくらい、大泣きしていた。
でもね、今日は涙で迎えたくないんだ。
だって、メイクが崩れちゃうし、君と迎える特別な日だし。
緊張してるけど、口紅が取れないように水も飲んでいない。
だってね、一番綺麗な姿を見せたいから。
不思議だね。こんな時も、君にもっと好きになって欲しいと思ってる。
初めて着るこの服で、君の心をもっと奪いたいんだ。
「志穂(しほ)」
大好きな君に呼ばれて、振り返る。
君の瞳に映る私は、ちゃんと綺麗に見えているかな?
「……綺麗だ。僕のお嫁さんになってくれて、ありがとう」
「貴方も、素敵だよ。ふふっ……こちらこそありがとう。それじゃあ行こうか、旦那さま?」
頬をほんのり赤く染めて、柔らかく微笑む君に、私の方が心を奪われてしまう。
私の頬もきっと赤くなってるんだろうな、と思いながら、君に駆け寄って腕を絡めた。
今日は、家族から卒業する日。
独り身から、卒業する日。
そして、君と恋人から――……卒業する日。
人生で一度きりの特別な日だから、今日は涙を仕舞って、笑顔を溢れさせるの。
《新郎新婦の入場です――》
さぁ、卒業しに行こう。そして、新しい人生を迎えるんだ。
fin.
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