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【600字以下】君へ、おやすみ


 本当はね、こんなことしたくないんだよ。私は君といる時間が心地よかった。

 幸せというのは、君と共にあるんだと、本気で思っていたんだ。



 ザクッ……パララ……

 ザクッ……パララ……



 頬を伝って、雫が落ちる。君に、まばらな雨が降る。

 掘り返した土を、君の体にそっとかけて。

 君が、埋まっていく。


 誰も、弔う人がいないから。

 君が亡くなったことを知っているのは、私だけだから。

 嗚咽を堪えて、唇を噛み締めて、君に土と、雫をかける。



「君が生きていたこと、私はずっと覚えているよ。ずっと、ずっと……」



 人が本当に亡くなるのは、誰の記憶からも薄れた時。

 そんな話を聞いたことがある。だから私は、君のことをずっとずっと忘れない。



fin.

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