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【600字以下】迷い込んだ■■■


 気がついたら、どことも分からない真っ白な場所にいた。


 首を傾げてみる。さらりと髪が垂れた。でも視界の端に映ったのは、いつもと違う白色だ。


 なんでだろう。右手で髪を持ち上げてみる。ひんやりしていた。



 じーっと見つめても白い髪は黒くならないので、今度は手を伸ばしてみた。もやに触れているような、不思議な感覚だ。

 すり抜けるわたに触れている感じ、というのが一番近いかな。

 いや、やっぱりどんな言葉も違う気がする。



 動く度になにかがふわふわとまとわりついて、でも邪魔にはならなくて。


 てくてくと、壁と床、天井の境目も分からない場所を歩いてみる。


 けれども、ごつんと、突然硬い壁につま先がぶつかった。


 いてて。



 弾き返されるように、後ろに尻もちをついて、目の前を見上げる。他の場所と、なんにも変わらない。


 透明な、壁?



【――? ――――――……――――、――――――――――――】



 その時、なにかが喋った。声も聞こえないし、言葉も分からないのに、何故かそう感じる。


 ふと、眠気に襲われて、まぶたが重くなった。


 うと、うと。あぁ、もうだめだ。耐えられない……。



――――――――


―――――


―――



「ひかりー? まだ寝てるのー?」



 気がついたら、布団の中にいた。重たい目をこすって時計を見ると、7時17分。


 大変。遅刻しちゃう。


 わたしは慌てて、布団の中から抜け出した。



fin.


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