飴を噛み砕く。コーヒーの匂いが口の中に広がる。苦みが舌に刺さる。決して美味しくはない。
けれど、これでいい。
「優理(ゆうり)って甘党なのに飴だけはコーヒー味が好きだよな」
「うん、まぁね」
鷹杜(たかと)くんが隣にいる時だけだよ、とは言えずに微笑んだ。
苦いコーヒー飴なんて好きじゃない。
ぐっと伸びをする鷹杜くんの横顔にまた見惚れそうになって、残った飴の残骸を口の中で転がす。
僕のこの気持ちはいつになったら無くなってくれるのかな。
「そうだ、明日遊びにいかないか?」
「えっ? 明日はデートの予定なんじゃなかったの?」
「それがさ、急用入ったみたいで。“優理くんと一緒にいて”って、陽茉莉(ひまり)も失礼なこと言うし」
「あはは……相変わらず浮気の心配されてるんだね」
嫉妬深い鷹杜くんの彼女が、僕には信頼を寄せてくれている。それは何よりも胸に突き刺さる事実だ。
僕はその信頼に応えなきゃいけない。
「そんなことしねーって言ってんのに。ま、男同士で気楽に遊ぶのもいいけどな」
「ふふっ、そうだね。それじゃあ、明日はどこに行く?」
友達の顔で話を合わせたいのに、胸がずきずきと痛む。僕は今、上手く笑えてるんだろうか。
「ゲーセンでゲーム三昧とかどうだ?」
「いいね、楽しそう」
あぁ、ときめいたら駄目なのに。鷹杜くんの楽しそうな笑顔を見ると、否が応でも胸が高鳴ってしまう。
僕はポケットから飴を取り出して、包装を破りながらコーヒー味のそれを口に入れた。
……苦い。
「優理と遊び尽くす為にも、バイト頑張らなきゃなー」
「っ、鷹杜くんは、デート代もかかるからね」
「そうそう」
手を組んでぐっと前に伸ばした“友達”から、バレないように目を逸らす。
鷹杜くんの言葉選びは、いつも危険だ。喜んではいけない。勘違いしてはいけない。僕の恋心は許されないのだから。
「じゃ、明日な。優理も本屋の店員頑張れよ」
「うん」
お互いのバイト先への分かれ道、僕は笑顔を貼り付けて後ろ向きに少し歩いた。
不自然にならないように気を張って、焦燥を抱えながら今だというタイミングで体の向きを変えると、段差に躓く。
「わっ」
「おいおい!」
前に傾いた体の中で、左腕だけが後ろに引っ張られた。
「大丈夫か? 気をつけろよ、顔に絆創膏貼って接客とかできないだろ」
「っ、うん……」
飲み込みかけた飴をがりっと噛む。罪の味が舌を突き刺す。
「……ありがとう」
なんとか絞り出した言葉に、鷹杜くんは仕方なさそうな微笑み顔で「おう」と答えた。
足下に気をつけながら、僕は一人、歩道を歩く。
……僕の恋は、苦い苦いコーヒー味だ。
fin.
お題「罪の味」より
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